仏像の顔には、さまざまな特徴をもつものがあります。
たくさんの顔や目があるもの、ほほ笑んでいるもの、激しく怒っているもの……など。
これらの「形」や「表情」には、どのような種類や意味があるのでしょうか?
「十一面観音の顔の表情」については、十一面観音とは > 11の顔にて解説しています。
1.仏像の顔の形
(1)おでこのホクロ(白毫)
おでこの真ん中にあるホクロのようなものは、じつは1本の白い毛(長さ4.5mほど)が丸まったもの。
これを白毫(びゃくごう)といい、世の中を照らす光を放つとされています。
実際には「水晶」や「真珠」などの宝石が使われており、ろうそくや自然の光が当たるとキラリと光ります。
白毫はさとりを開いた如来に共通する特徴ですが、菩薩にも多く見られます。
(2)第三の目
如来のおでこに白毫がついているのに対し、明王のおでこには縦長の形をした第三の目(だいさんのめ)がついています。
第三の目は仏眼(ぶつがん)ともよばれ、真実を見抜く力をもつとされています。
(3)耳にあいた穴
仏像のモデルであるお釈迦さま(=釈迦如来)は、もともとはインドの王子であったため、冠やピアスなどの豪華なアクセサリーを身につけています。
そのなごりとして、如来や菩薩の耳たぶには、大きな穴(ピアスのあと)があいています。
また、如来が「恐ろしい姿」に変身した明王にも、この穴が見られます。
(4)首のしわ(三道)
首に刻まれた3本のしわを、三道(さんどう)といいます。
三道は如来に共通する特徴であり、「さとり」にいたるまでの3つの段階を表しているといわれています。
しわが2本や4本などの例外もあり、菩薩や明王にも多く見られます。
(5)多くの顔と腕(多面多臂)
多くの顔と腕をもつ姿を多面多臂(ためんたひ)といい、さまざまなバリエーションがあります。
1つの顔と4本の腕をもつ一面四臂(孔雀明王)、3つの顔と6本の腕をもつ三面六臂(阿修羅)、6つの顔・6本の腕・6本の足をもつ六面六臂六足(大威徳明王)など。
なかでも、千手観音はもっとも多くの顔と腕をもち、十一面四十二臂の姿をしています。
多面多臂は、如来を除くあらゆる種類の仏像に見られます。
2.仏像の表情
(1)無表情(半眼)
仏像の多くは無表情で、どこを見ているのかわからない「半開きの目」をしています。
この目つきのことを半眼(はんがん)といい、心が深く静まった瞑想の状態を表しています。
さとりを開いた如来や、さとりをめざして修行中の菩薩に見られる特徴です。
(2)優しい表情(慈悲相、アルカイックスマイルなど)
A.慈悲相
人びとを救おうとする優しい表情を、慈悲相(じひそう)といいます。
慈悲相は半眼と同じく瞑想の表情でもあり、こちらも如来や菩薩に多く見られます。
B.アルカイックスマイル
慈悲相の中でも、感情をおさえてほほ笑んでいる表情を、アルカイックスマイルといいます。
わずかに引き上げた口もとが特徴であり、古拙の微笑み(こせつのほほえみ)ともよばれます。
補足
アルカイックスマイルは、もともとは古代ギリシアの「アルカイック時代」(紀元前6世紀ごろ)の彫刻に見られる表情をさす言葉。
C.美しい表情
美と繁栄の女神である吉祥天や、子どもの守り神である鬼子母神などが、美しい表情をしています。
D.にっこり笑った表情
七福神のメンバーや、夫婦円満をもたらす歓喜天などが、にっこり笑った表情をしています。
(3)恐ろしい表情(忿怒相)
怒った顔の表情を忿怒相(ふんぬそう)といい、人びとを力ずくで導く明王に共通して見られます。
同じ忿怒相でも、軽くにらんだものから大きく口を開けたものまで、怒りのレベルはさまざま。
ただ怖いだけでなく、その表情の下には、人びとを救おうとする「優しさ」が隠れています。
よろいかぶとに身を固めた武神形の天部、仏と神が合体した垂迹神、あの世の裁判官である十王などにも多く見られます。
(4)りりしい表情
キリっとした目つきのりりしい表情は、釈迦如来を脇からサポートする梵天・帝釈天や、仏教の世界の四方を守る四天王などに見られます。
ちなみに、如来や菩薩は基本的には慈悲相ですが、りりしく見えることもあります。
(りりしい表情をしたものも、実際にはある)
(5)動物の顔
仏像の中には、動物の顔をした珍しいものもあります。
鳥の顔をした迦楼羅や、鬼の顔をした風神・雷神など、天部の一部に見られます。
解説は、以上です。
「十一面観音の顔の表情」については、十一面観音とは > 11の顔にて解説しています。