大日如来(だいにちにょらい)を簡単に
- 大日如来とは、宇宙を治める絶対王者。
- 「智慧」と「優しさ」の光で、世界を照らす。
- 金剛界・胎蔵界の2つのバージョンがある。
1.大日如来とは
大日如来(だいにちにょらい)とは、宇宙を治める絶対王者。
あらゆる仏(如来・菩薩・明王・天部)のトップに立つ、もっとも偉大な仏さまです。
大日という名前には、「大いなる太陽」という意味があります。
その名が示すように、大日如来は偉大な光で世界のすべてを照らします。
宇宙に存在するすべての生命は、大日如来から生まれたとされています。
また、釈迦如来をはじめとするあらゆる仏は、大日如来が姿を変えたものであるとも考えられています。
大日如来は、仏教が独自に発展した密教という教えの中で生まれました。
密教(みっきょう)とは
仏教とヒンズー教が融合して生まれた、不思議な宗教。
「真言」とよばれる呪文や、「護摩」とよばれる火をたく儀式などが特徴。
大日如来と一体になることによって、人は生きたまま仏になれると説いている(即身成仏)。
密教においては
- 金剛界(こんごうかい)
- 胎蔵界(たいぞうかい)
という2つの世界があり、それぞれの世界の中心に、性格の異なる大日如来がいます。
2.金剛界の大日如来
金剛界(こんごうかい)の「金剛」とは、金剛石(ダイヤモンド)のこと。
金剛石のように何があっても壊れない“大日如来の智慧”を表した世界が、金剛界です。
この金剛界の中心にたたずむのが金剛界の大日如来であり、その偉大な智慧を人びとに伝える役割を担います。
大日如来の智慧については、金剛界の五智如来にて解説しています。
金剛界の大日如来は、ほかの如来たちとは異なる姿で表されます。
菩薩のように宝冠や瓔珞などの豪華なアクセサリーを身につけ、智拳印という特殊な手のポーズをしています。
密教では、金剛界をビジュアル化するために、金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)という絵図が考え出されました。
金剛界曼荼羅は9つの四角形に分かれており、上の段の真ん中の四角形には、大きなサイズの大日如来が描かれています。
そのほかの四角形には、大日如来やほかの仏たちが、円の中に小さく描かれています。
金剛界曼荼羅には37種類もの如来や菩薩が登場し、その中でもメインの5体の如来(大日如来を含む)を五智如来(ごちにょらい)といいます。
4体の如来が大日如来を取り囲み、そのはたらきをサポートしています。
【金剛界の五智如来(大日如来を除く)】
詳しくは、金剛界の五智如来にて解説しています。
このようにさまざまな図形や仏たちが規則正しく並ぶ金剛界曼荼羅は、「日常の世界」から「智慧の世界」にたどり着くまでの道筋を表しています。
3.胎蔵界の大日如来
胎蔵界(たいぞうかい)の「胎蔵」とは、お母さんのおなかの中(胎内)のこと。
母のようにすべてを包みこむ“大日如来の優しさ”を表した世界が、胎蔵界です。
この胎蔵界の中心にたたずむのが胎蔵界の大日如来であり、「さとり」という偉大な心を人びとと分かち合う役割を担います。
「さとり」とは
「迷いを捨て 世界のすべてを知る」という、大いなる気づきの心。
(もっと簡単にいうと、世の中や人生のことがすっきりとわかって悩まなくなった状態のこと)
胎蔵界の大日如来も、(金剛界と同じように)菩薩のような華やかな姿をしています。
手のポーズは金剛界とは異なり、おなかの前で両手を重ねた法界定印を結びます。
胎蔵界を絵図として表したものを、胎蔵界曼荼羅(たいぞうかいまんだら)といいます。
胎蔵界曼荼羅は12のエリアに分かれており、大勢の仏たちが中心の大日如来を取り囲むように並んでいます(その数なんと400体以上)。
中心部は「蓮華の花」の形をしており、そこにメインの5体の如来(五智如来)が並んでいます。
胎蔵界の五智如来は、金剛界とはメンバーが異なります。
【胎蔵界の五智如来(大日如来を除く)】
- 宝幢如来(ほうどうにょらい)
- 開敷華王如来(かいふけおう――)
- 無量寿如来(むりょうじゅ――)
- 天鼓雷音如来(てんくらいおん――)
詳しくは、胎蔵界の五智如来にて解説しています。
このように大勢の仏たちがドーナツ状に並ぶ胎蔵界曼荼羅は、大日如来の優しさが人びとのもとへ広がる様子を表しています。
4.大日如来と毘盧遮那仏の違い
大日如来とよく似た仏像に、毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)という如来がいます。
毘盧遮那仏とは
宇宙そのものを体で表した如来。
大日如来と同じように、名前には「太陽」という意味がある。
詳しくは、毘盧遮那仏とはにて解説しています。
大日如来と毘盧遮那仏は、もともとは同じ仏であり、世界を照らす「太陽」のような性質があります。
この太陽のような仏は、密教では大日如来として、華厳宗という宗派では毘盧遮那仏として登場します。
呼び名が変わると同時に、それぞれの仏の性格も異なってきます。
大日如来は、宇宙に充満するように、この世界のあらゆる場所に存在します。
星の配置も、森や川のせせらぎも、微生物の動きさえも……すべてが大日如来の姿なのです。
大日如来はこれらの自然現象をとおして、私たちにダイレクトに教えを語りかけています。
一方、毘盧遮那仏は、宇宙の中心にどっしりと座るように1体のみが存在します。
大日如来のようにダイレクトに語りかけることはなく、釈迦如来という人間の仏をとおして教えを説いています。
大日如来 | 毘盧遮那仏 | |
---|---|---|
宗派 | 密教 | 華厳宗 |
宇宙観 | 宇宙に遍在 | 宇宙の中心に1体のみ |
見た目 | 華やか | シンプル |
はたらき | ダイレクトに教えを語る | 釈迦如来をとおして教えを語る |
そのため、「太陽」という名の仏は
- ウラ(=密教)では 大日如来として
- オモテ(=華厳宗)では 毘盧遮那仏として
人びとに教えを語っていると、イメージすることができます。
5.ご利益
大日如来は、ひつじ年・さる年の守り本尊です。
6.有名な像とお寺
- 大日如来坐像【胎蔵界】/妙楽寺(千葉県長生郡)
- 立体曼荼羅のうち大日如来坐像【金剛界】/東寺(京都)
- 大日如来坐像【金剛界】/円成寺(奈良)
- 大日如来坐像【金剛界】/唐招提寺(奈良)
- 大日如来坐像【胎蔵界】/金剛峯寺・根本大塔(和歌山)
立体曼荼羅(りったいまんだら)
真言宗の総本山である「東寺」の立体曼荼羅は、21体もの巨大な仏像を(大日如来を中心にして)約30メートルにわたってずらりと並べた壮大な様式。
密教という奥深い教えをリアルに伝えるために、弘法大師空海によってつくられた。