愛染明王(あいぜんみょうおう)を簡単に
- 愛染明王とは、愛の欲望をエネルギーへと変える明王。
- 「恋愛の仏さま」として人気を集める。
- キューピッドを思わせる「弓矢」がトレードマーク。
1.愛染明王とは
愛染明王(あいぜんみょうおう)とは、愛の欲望をエネルギーへと変える明王。
愛染とは、愛欲(恋愛欲、性欲、パートナーへの執着)に染まってしまった心のこと。
そんなドロドロした愛欲は、仏教では修行の邪魔をする「悪」とされてきました。
その一方で、仏教が独自に発展した密教という教えでは、愛欲は「さとり」(大いなる気づきの心)を得るための大切な本能とみなされます。
密教(みっきょう)とは
仏教とヒンズー教が融合して生まれた、不思議な宗教。
「真言」とよばれる呪文や、「護摩」とよばれる火をたく儀式などが特徴。
大日如来と一体になることによって、人は生きたまま仏になれると説いている(即身成仏)。
愛染明王は、この愛欲から生じる悩みをさとりを得るためのエネルギーへと変え、人びとを迷いから目覚めさせます。
もともとは密教の儀式「愛染明王法」の主役であり、平安時代(794~1185年)から降伏(敵を倒す)や敬愛(人間関係を円満にする)の仏としてまつられてきました。
江戸時代(1603~1868年)には「恋愛の仏さま」へと生まれ変わり、今でも恋愛成就や水商売守護の仏として人気を集めています。
1993年に設立された西国愛染十七霊場では、愛染明王をいちずにお参りすることができます。
西国(さいこく)愛染十七霊場
三重・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・岡山を結ぶ、愛染明王を巡ってお参りするための17のお寺
2.姿かたち
(1)一般的な像
1つの顔と6本の腕をもつ、一面六臂(いちめんろっぴ)の姿が一般的。
肌は「愛」を表す赤色に染まっています。
菩薩と同様、肩から斜めに条帛をかけ、瓔珞・臂釧などのアクセサリーを身につけています。
髪は逆立ち(炎髪)、トレードマークである獅子の冠をかぶります。
顔は怒りに満ちた忿怒相をし、おでこには第三の目がついています。
6本の手は、蓮華・金剛鈴・金剛杵などの道具や、恋のキューピッドを連想させる弓矢を持ちます。
どの像も、必ず弓矢を手に持ちます。
背後では円光や二重円光が輝き、蓮華座に乗ります(円光や二重円光がついていない像も一部ある)。
蓮華座の下には、宝瓶(宝物を吐き出すつぼ)が置かれることがあります。
両足を組んで座っている像(結跏趺坐)が一般的ですが、立っている像(正立像)も一部あります。
(2)天弓愛染明王像
愛染明王の別バージョンとして、天に向けて矢を放つ姿をした天弓(てんきゅう)愛染明王があります。
お経に書かれている「衆星の光を射るがごとし」という姿を再現した像であり、愛染明王から放たれた矢はあらゆる星の光をキャッチするといわれています。
愛染明王のもつ弓矢には「人びとを正しい道へと導く」というはたらきがあり、これを強調した像であるといえます。
3.ご利益
※「藍染(あいぞめ)」と名前が似ていることから、染物・織物職人の守り神とされてきた。
4.有名な像とお寺
- 愛染明王坐像/妙高寺(新潟)
- 天弓愛染明王坐像/放光寺(山梨)
- 愛染明王坐像/愛染堂[勝鬘院](大阪府)
- 愛染明王坐像/西大寺(奈良)
- 愛染明王坐像/高野山・金剛三昧院(和歌山)
天弓愛染明王は超レア
天弓愛染明王像は、日本に数体しかない希少な像。
その中でも「放光寺」の像は、日本最古の天弓愛染明王像として有名。
ほかには、深川不動堂(東京)・神童子(京都)・金剛峯寺(和歌山)などに作例がある。