文殊菩薩(もんじゅぼさつ)を簡単に
- 文殊菩薩とは、すぐれた智慧で人びとを導く菩薩。
- 普賢菩薩とペアを組み、釈迦如来を脇からサポート。
- 智慧の込められた「宝剣」を持ち、獅子に乗る。
1.文殊菩薩とは
文殊菩薩(もんじゅぼさつ)とは、すぐれた智慧で人びとを導く菩薩。
正式な名前を、文殊師利菩薩(もんじゅしりぼさつ)といいます。
文殊菩薩は古代インドに実在した人物であり、お釈迦さま(=釈迦如来)の教えを経典にまとめるほど智慧にすぐれていたといわれています。
文殊菩薩のもつ「智慧」とは、真実を見抜くための気づきの力のこと。
知識や勉強をとおして身につける「知恵」とは異なります。
しかし、現代では智慧の意味が広げて解釈され、学業成就・合格祈願のご利益があるといわれています。
文殊菩薩は普賢菩薩とペアを組み、釈迦如来を脇からサポートします。
この3者がセットになったものを釈迦三尊といい、それぞれが次のような役割を担います。
- 釈迦如来
・・・人びとが幸せになるための教え(仏教)を開く。 - 文殊菩薩
・・・釈迦如来の「頭脳」として、仏教を活かすための“智慧”を受けもつ。 - 普賢菩薩
・・・釈迦如来の「手足」として、“智慧”を実践する。
釈迦三尊は、3者が役割分担をしながら人びとを幸せへと導くシステム。
最初に釈迦如来が仏教を開き、次に文殊菩薩の“智慧”で仏教を活かす方法を考えます。
そして最後に、普賢菩薩がその“智慧”を実践し、人びとを幸せへと導きます。
なお、『維摩経』というお経の中に、次のような逸話が残されています。
文殊菩薩と維摩居士の問答
仏教をきわめた維摩居士という人物はとても頭が良く、議論に勝つ者は誰一人いませんでした。
あるとき維摩居士が病気にかかり、釈迦が弟子たちに見舞いに行くよう命じますが、議論に負けることを恐れて誰も行こうとしません。
そこで、文殊菩薩を見舞いに行かせたところ、維摩居士と同じレベルで議論し合ったそうです。
2.姿かたち
ほかの菩薩と同様、インドの貴族のような華やかな服装をしています。
左手に釈迦の教えが書かれた経巻、右手に智慧の込められた宝剣を持ち、獅子に乗ります。
(上のイラストには描かれていませんが、蓮華座の下に大きな獅子がいます)
経巻の代わりに蓮華を持つ像や、蓮華の上に経巻がのっている像もあります。
百獣の王である獅子は、その強さで文殊菩薩を守っています。
(獅子は、すぐれた智慧のシンボルとも)
獅子に乗らずに蓮華座の上で結跏趺坐をした像も、一部あります。
3.文殊菩薩のなかま
(1)渡海文殊
文殊菩薩が仏教を伝える旅に出ている様子を描いたものを、渡海文殊(とかいもんじゅ)といいます。
渡海文殊では、獅子に乗った文殊菩薩が付き人とともに雲海を渡る姿が表現されています。
付き人には、以下の4人のメンバーがいます。
- 善財童子(ぜんざいどうじ)
・・・文殊菩薩の先を歩いて道案内をする子ども - 優填王(うてんおう)
・・・獅子の綱を引くインドの王さま - 仏陀波利三蔵(ぶっだはりさんぞう)
・・・釈迦の弟子の一人であるインドのお坊さん - 最勝老人(さいしょうろうじん)
・・・年老いた維摩居士
この5体セットの像は
- 渡海文殊群像
- 文殊菩薩騎獅像および四侍者像
などとよばれ、「安倍文殊院」「西大寺(奈良)」などに作例があります。
(2)そのほかの仲間
(先ほど書いたように)文殊菩薩は、釈迦三尊のメンバーとして
と一緒にまつられることがあります。
4.ご利益
文殊菩薩は、うさぎ年の守り本尊です。
5.有名な像とお寺
- 文殊菩薩騎獅像/大聖寺[出羽の亀岡文殊](山形)
- 文殊菩薩騎獅像/智恩寺[丹後の切戸文殊](京都)
- 渡海文殊群像/安倍文殊院[大和の安倍文殊](奈良)
- 文殊菩薩坐像/興福寺(奈良)
- 文殊菩薩騎獅像および四侍者像/西大寺(奈良)
日本三文殊
「出羽の亀岡文殊」「丹後の切戸文殊」「大和の安倍文殊」の3つのお寺は、日本三文殊として知られている。
ライバルと問答する像
奈良を代表するお寺の一つである「興福寺」の文殊菩薩坐像は、維摩居士と問答する姿を表した像として有名。
毎年4月25日に行われる「興福寺文殊会」とよばれる伝統行事では、華やかな衣装に身を包んだ子どもたちが町を練り歩き、この文殊菩薩にお参りする。